研究内容

当講座では「生理活性物質の新規生理機能の解明」をメインテーマに、神経ペプチドやDAMPs(Damage-Associated Molecular Patterns)などに着目し、それらの新たな生理機能を明らかにすることを目指しています。

具体的には、目的の生理活性物質に関して、遺伝子改変技術を用いてモデル動物(マウスおよびゼブラフィッシュ)を作製し、行動生理学的手法や脳室内薬物微量投与技術、分子生物学的手法を駆使して解析を行っています。そして、標的とする分子が関与する新たな生理機能の一連の分子メカニズムを追究しています。

そして、新たに解明された生理機能が関与するヒトの病態との関連性から、その関連疾患の診断や治療戦略、創薬へとつなげる研究を目指しています。

現在、当講座では、下記のプロジェクトをメインとして研究を進めております。

『神経ペプチドの新たな生理機能の解明研究』

神経ペプチドは中枢神経系や末梢組織で、食欲、エネルギー代謝、ストレス応答など多様な機能を担っています。その機能の解明により、生理的プロセスへの理解が深まると同時に、神経ペプチドやその受容体は、肥満、消化器疾患、不安障害などの治療標的としても注目されています。また、神経ペプチドは内因性物質であるため、化学薬剤に比べて副作用が少ない治療法としても期待されています。さらに、病態の進展に伴う神経ペプチドプロファイルの解析により、バイオマーカーとしての応用や、患者ごとのプロファイル解析を通じた個別化医療への貢献も期待されています。

当講座では、神経ペプチドであるニューロメジンU (NMU)システムに着目して新たな生理機能を追究しています。NMUは1985年に同定された生理活性ペプチドであり、2000年NMU受容体が同定されたのを機に生理機能の解析が進み、現在に至っています。その後、NMU受容体の新たな内因性リガンドであるニューロメジンS (NMS)も同定され、現在、NMSの生理機能の解析も進んでいます。
  現在、当講座では、NMU/NMS両遺伝子欠損マウスやNMUシステムの受容体遺伝子欠損マウスを駆使して、エネルギー代謝関連疾患やストレス関連疾患に関わる新たな生理作用を見いだし、その分子メカニズムの解析を進めています。新たに得られた知見をもとにNMUシステムが関与する病態の治療や創薬、バイオマーカーへの発展の可能性も追究していきたいと考えています。

『DAMPsを介したエネルギー代謝関連疾患およびストレス関連疾患の病態解明研究』

近年、ダメージを受けた細胞から分泌されるDAMPs(Damage-Associated Molecular Patterns)が、炎症や組織の線維化の進行に関与することが明らかにいます。DAMPsは細胞や組織が損傷を受けた際に放出される内因性分子で、免疫応答の引き金となる役割を果たします。通常、DAMPsは細胞内に存在し、健康な状態では免疫系に認識されませんが、細胞が損傷やストレスを受けると細胞外に放出され、炎症応答を誘導し、免疫細胞の活性化や組織修復に重要な役割を果たします。

当講座では、DAMPsの一種であるATPおよびAdenosin(Ado)に着目し、細胞外ATPおよびAdoを介した病態生理機構の解明研究をおこなっています。現在は特に「脂肪肝(MASLD/MASH)」の病態進展機構に注目し解析を進めています。本研究ではゼブラフィッシュ の特性を活かして、肝細胞外ATPおよびAdoの動態をGFP輝度変化で可視化する「肝細胞特異的GRABセンサーゼブラフィッシュ(GRABATPフィッシュ、GRABAdoフィッシュ)」を樹立し、世界で初めて、in vivo(生体)での肝細胞外ATPおよびAdoの定量解析を可能としました。その結果、MASLD/MASH病態進行度と肝細胞外ATPおよびAdo動態が相関することを示しました(Tokumaru T et al. Sci Rep, 2024)。今後は、脂肪肝病態のみならず、心疾患や精神・神経疾患の病態進展機構への細胞外ATP/Adoシステムの関与についても研究を拡大していく予定です。

本研究を通じて新たな病態機構の解明を目指すとともに、細胞外ATP/Adoを指標としたin vivoスクリーニングへの応用も進め、各疾患に対する新たな治療薬候補の提案にもつなげていきたいと考えています。